special

思いつきと巡り合わせで生まれる「小さくて特別なもの」。

daily poet  伊東和佳奈

「プラスチックのうつわ」


可愛らしいプラスチックのうつわを買った
うつわは外側が若い新芽みたいな黄緑色で
中はたまごの殻みたいな白い色をしていた
買ったその夜
意気揚々とカレーをつくって
そのうつわで食べた
一晩だけのパーティーのように
あまりに軽くて色鮮やかで
なんだか可笑しく愉快になってきて
二杯もおかわりした
食べ終えてフワフワした心のまま
洗剤つけて洗ったら
山吹色のシミがしっかりついていた
スポンジでこする度に
パーティーの余韻は消えていったけど
カレー色はここぞとばかりにうつわに居座った
その後、シミを抱えたまま
カレー以外のものをそのうつわで食べては何度も洗った
そのうち使う回数も減ってきて
久しぶりに食器棚から出すと
すっかりカレー色はいなくなっていて
うつわの中はたまごの殻のような白になっていた
そんなもんだよな、と
妙に納得して何事もなかったかのように
カレーをよそった

2011.10.04 08:03

daily poet  伊東和佳奈

子どもみたいに
目の前の面白いと思うものに
すぐ夢中になるのに
すこし時間が経つと周りが気になって
顔をあげてしまう

子どもみたいに
目先の石ころに気を止めることなく
遠くの遊園地にある赤い乗り物を目指して
突っ走て行くのに
誰もついてこないと心細くなって
もう少しの所で立ち止まってしまう

子どもみたいに
人参もネギも嫌いで
一かけらも食べないくせに
人に会う時は大抵笑顔でいたりする

子どもみたいに
楽しいときは兎みたいにピョンピョン飛び跳ねて
悲しいときは何日も思い出して泣くのに
人前では何かあっても平気なふりをする

君は子どもになりきれない
大人みたいな子どもで

大人になりきれない
子どもみたい大人だね






2011.10.03 07:01

daily poet  伊東和佳奈

「あたたかな痕跡」

毎朝、使い捨てのコンタクトレンズが
ソファーの背もたれの所や
ダイニングテーブルの上
ベッドの淵やチェストの上に
しわしわになりながら
ちょこんと置いてある

君が夜遅くに帰ってきて
家の中で過ごしたぬくもりが

しゅーんと小さく丸まりながら
温かな痕跡となって
今朝も窓辺に残されている






2011.10.01 08:12

daily poet  村椿菜文

110921季節のマーチ

肌寒い朝
目覚める前の一瞬
毛布を引き寄せながらおでんの夢を見る
おでん
とりつくね鍋
モツ煮込み
牛スジの煮込み
ブリ大根
そんなもの達がこれから列をなしてやってくる
だから何も恐れることはないのだと
気持ちを強く明るくする
夏は終わった
今度こそほんとうに終わった






2011.09.30 07:43

daily poet  伊東和佳奈

「夕暮れのセレモニー」

太陽がその姿を赤く染める準備をする頃、
綿菓子のように白い雲たちが
その姿をそっと隠すように包み込んでいく

それでも覆いきれない薄紅色の光のベールが
放射状にゆっくりと広がって
幾つもの光の糸が赤い絨毯のようにすぅーっと降りてくる

雲に顔を覆った太陽は
黙っていても幸せが溢れ出てくる花嫁みたいだ

いつもはあまり感情を表に出さない
凜とした山たちも
光のベールがかかっている間は
表情を緩めて優しく微笑んでいる

やがて霧のように細やかな光の粒子が
宙にキラキラと放られると
祝福とともに夕暮れのセレモニーは終わり
辺り一面にネイビーブルーのカーテンがひかれる

華やかで無邪気だった太陽が
しっとりと落ち着いた表情をたたえた月の姿となって
ゆっくりと雲の合間から姿をあらわした






2011.09.26 17:11

daily poet  伊東和佳奈

「知っているということ」

そのなめらかさを水が知ることはない
その眩しさを太陽が知ることはない
そのあたたかさを灯火が知ることはない
その尊さを命が知ることはない

そのなめらかを君は知っている
その眩しさを君は知っている
そのあたたかさを君は知っている
その尊さを君は知っている

知っているということは
感じているということ

知っているということは
繋がっているということ

知っているということは
照らし出すということ

知っているということは
自由になるということ






2011.09.26 17:10

daily poet  伊東和佳奈

「寄り道」

ちょっとさみしくなると寄り道をする

ふらふらしてるうちに日が暮れて
まっすぐ帰ればいいのに
曲がり角があるとつい曲がってしまう

強がって、上を向いてみるけれど
夕空の果てしなさに途方にくれて

誰かここから連れ去ってくれたらいいと
心を閉じたまま、足をとめる

ぽつぽつと
雨が地面を染めるたびに

ぽつぽつと
空いた心の隙間

中途半端な好奇心と道端の青い花
だだっ広いグレー色の空と
知っているようで知らない通り

居場所が見つからないように感じるのは
そこに居る自分を見つけようとしないから

現実と幻想の狭間を往き来する
さみしがりやの
寄り道






2011.09.26 17:09

daily poet  丹保昌子

突然湧き上がった歌声。手で拍子をつけて、音に合わせてゆるく体を揺らめかす彼女らから、目が離せなくなる。高くも太くて安定した声色は、私には備わっていないものだった。歌の源は祈りという行為から生まれた、そんな話を思い出す。それに相応しく、歌は大空へ立ちのぼり、大地へしみ込んでゆく。大気に祈りが溶けてゆく。
小さな娘を連れて、トランクをガラガラ引っ張って故郷の道を歩く。家々からは夕餉の匂いが漂う。小さな魚屋の前を通ると、店主から声をかけられた。勿論知り合いでも何でもない。「里帰りかい?早く旦那のいる家に戻ってやんな」。「そうします」笑って返事してハタと気づく。家出と間違われた?ただの帰省なんだけどな。歩きながら堪え切れずクスクスすると、娘が不思議そうな顔で見上げた。
 





2011.09.26 07:01

daily poet  丹保昌子

植物が異なれば、葉擦れの音も違うと知る。熱帯の緑の葉は厚く、水分をたっぷり含むゆえ。裏庭でバタバタと大きな音に驚いて振り仰ぐと、そこにはタビビトノキが風に煽られ幅広の葉をはためかせていた。幹に多くの水を溜め、旅する人の喉の渇きを癒すときく。本当かどうかまだ試したことはない。あまりに幹が大きくて、切るのに臆してしまう。





2011.09.24 08:19

daily poet  丹保昌子

密林の国の空は広い。雲が多い。電線がない。飛行機もヘリコプターも横切らない。空高く飛ぶのは鳥と蝙蝠。だから、たまに飛行機の轟音が聞こえると吃驚する。静かな空には、風だけが通るのが常。とても手の届かない高い木の葉を揺らしては、人間の領域でないことを示す。




2011.09.23 06:56